村上春樹『若い読者のための短編小説案内』の案内(2021年2月時点)

  • 2021年10月24日
  • 読書

私は村上春樹がとても好きなので彼の本を色々と買い込んでいるのだが、本棚を見て「そういやちゃんと読んでなかったな」と思った本があった。

それが、「若い読者のための短編小説案内」(文春文庫, 2004年(単行本1997年))だった。手に取った当時この本を読めなかったのには明確な理由があった。この本では、「第3の新人」という日本の文学史のなかの一群の作家の短編を扱っているのだが、私は当時日本文学に興味を持っていなかった。それが理由である。

ところが、ここのところ急激に日本文学に興味をもつようになった。

これについては前記事で:「好きな日本人作家の話

という流れがあり、今回本書を読むことにした。

この本の中では6人の、第3の新人に類される作家が扱われる。

以下に扱われている作家の情報をまとめる(入手困難か否かについては、書店で発注して入荷してもらえるか確認した結果。Amazon等で探せば中古なら下記の全集以外の収録書籍を入手可能。全集で読むなら図書館で探せば恐らく見つかるはず)。

小説家名作品名今回確認した収録書籍入手困難?
吉行淳之介水の畔り吉行淳之介全集1(講談社)困難
小島信夫アメリカン・スクール (新潮文庫)購入可能
安岡章太郎ガラスの靴質屋の女房 (新潮文庫)購入可能
庄野潤三静物プールサイド小景・静物 (新潮文庫)購入可能
丸谷才一樹影譚樹影譚 (文春文庫)購入可能
長谷川四郎阿久正の話現代の文学22 長谷川四郎 開高健 (講談社)困難

吉行淳之介「水の畔り」については、この作品は探しづらいが、芥川賞受賞作品でもある「驟雨」を収録する「原色の街・驟雨」等は購入可能(「水の畔り」はマイナーな作品のようですね)。この本に収録されている「漂う部屋」は「水の畔り」と同じ病室を扱った短編。

長谷川四郎「阿久正の話」については、この作品だけでなくこの作家の単行本そのものが絶版のものが多い模様。


それで、この短編案内自体について文学者でもない人間が手に取りやすいのは、村上春樹が評論という行為をしていないところにあると思う。

書き手でもある読者の1人としての村上春樹が、あくまで一人称の視点で各作品を読んでいる。それが、よくある文芸評論とは一線を画すものかなと感じた。

それにしても、改めて上の表に作品を並べて思ったけど、非常に興味深いというか特徴的な作品たちだったなあ。

ぜひとも、文春文庫には上記作品を集めた短編集を出していただきたい。とても魅力的なものになると感じた。

それと、上述の作家陣と並んで遠藤周作も「第3の新人」に類されるが、村上春樹曰く遠藤周作の魅力は中・長編にあり、丁度よい短編が見つけられなかったとのことで、この本では紹介されなかった。

冒頭で示した前記事のなかで述べたとおり私は遠藤周作のファンな訳だが、言われてみれば確かに遠藤周作の短編ってまだ読んだことない。

が、改めて他の「第3の新人」を読んだうえで、私にとっては今のところ遠藤周作が一番好きだなあと思った。細かい描写の仕方とか、登場人物の性格とか。